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栃木レザー

2012.12.13.Thu.01:47
かねてから見学を希望していた、日本屈指のタンナー(皮革素材製造業者)栃木レザーに行ってきました。
以前から靴学校の師匠や仲間たちと進行していた企画なのですが、今回は仲間の一人が取り持ってくれた縁で東京都皮革技術センター所長・Yさんが同行してくださいました。
さらに現地では、栃木レザーのIさんがつきっきりでガイドしてくださり、なんだか申し訳ないほど贅沢な見学会となりました。


タンナーの仕事は、一言でいえば腐敗しやすく脆弱な「皮」を、耐久性と柔軟性を併せ持つ「革」へと化学的・物理的に変化させること。
動物から剥ぎ取られた皮(=原皮)は、下のような複雑な工程を経て、メーカーや職人たちが使う素材になっていきます。

①水洗い
②背割り
③石灰漬け・
脱毛
④フレッシング(余分な脂肪を取り除く)
⑤脱灰・酵解(石灰漬けでアルカリ化した皮を中和する)
⑥タンニン鞣し(植物タンニン溶解液の入ったピット槽に漬け込む)
⑦水絞り
⑧加脂(革に柔らかさと艶を与える)
⑨セッター(革を伸ばす)
⑩乾燥
⑪革漉き(厚みを整える)
⑫再鞣し・染色
⑬セッター(革を伸ばし、脱水する)
⑭ハンドセッター・手伸ばし(さらに職人の手技で革を伸ばしていく)
⑮味取り・乾燥(水分をとばし、乾燥させる)
⑯バイブレーション(専用の大型機械を用いて、革に柔軟性を与える)
⑰塗装(革表面に艶と色を与え、耐久性をアップさせる)
⑱アイロン・仕上げ(専用機械やアイロンで表面の光沢を出したり、型押しなどを行う)
⑲計量
⑳梱包・出荷



原皮の状態


完成。奥で出荷の準備中。



栃木レザーの生み出す革が高く評価されているのは、上記のどの工程においても高い技術と時間と手間を惜しみなくかけているからですが、なかでも⑥はその白眉と言って良いでしょう。

同社では鞣し剤にブラジル産のミモザを用い(一部の革にはケブラチョというウルシ科の植物も用いるそうです)、その粉末を地下からくみ上げた水に解いて原皮を漬け込んでいます。

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画像は、タンニン樹液を張ったピット槽。
全部で160(1ブロック40ピット×4ブロック)もあり、濃度の低いピットから高いピットへと約20日間かけてゆっくりと浸し渡します。
この作業により、コラーゲン繊維が結びつけられ安定します。
もともとは動物の身体の一部であった皮は、このように植物の力を借りて、防腐性、耐熱性、対薬品性、強靱性…といった新しい生命を吹き込まれ、革へと生まれ変わるのです。

こうした技術は、伝承の努力なしにはあっという間に廃れてしまうもの。
『図説「最悪」の仕事の歴史』(トニー・ロビンソン著  原書房  2007年)によると、ローマ時代~ヴィクトリア王朝時代の英国に存在した仕事のうち、「あらゆる時代を通じて最悪の仕事」はタンナーなのだとか。
力仕事、汚れ仕事、危険作業、そして低賃金で退屈、というのがその理由。

栃木レザーの作業環境は、タンナーのなかでは破格に美しいのですが、それでも原皮が発する強い匂いや、冬場も袖をまくりあげて冷水を扱う苛酷さ、ちょっと間違えれば大きな事故に繋がりかねない危険な作業現場に接すると、その大変さを改めて痛感します。
とくに匂いは冬場でもかなり生臭く、服や髪にしみついた匂いが周りの人に嫌がられないか、帰りの電車でも気になってしまうほど。
これまでにもタンナーを訪れたことは何度かありますが、毎回この匂いに接するたびに、職人さんたちの仕事に頭が下がります。

しかし、栃木レザーの現場では若い職人さんたちもいきいきと働いていて、仕上げ工程では女性の姿も見かけました。
この仕事に魅力と誇りを感じ、自ら選びとっていく若い世代の存在は、本当に貴重。
狭い意味での「皮革業界」だけでなく「革文化」の担い手として、次代を創っていく人々だと思います。
先輩職人の技を受け継ぎ無心に仕事に打ち込むストイックな表情には、密かな自負のようなものが滲み出ていて、何だかとてもまぶしく見えました。

タンニン鞣しの革は、靴ならば主に本底(靴の外側から見える底)や中底(インソールを剥がすと見える底)など、「縁の下の力持ち」の部分に使われます。
他にも、バッグ、ベルト、コインケースなどの革小物、…などなど用途は多彩ですが、いずれも実用にかなう丈夫さが求められるものばかり。
なかでも手塩にかけて鞣し上げた革は、靴を作っている時の手触りも、仕上がった後の使い心地にも、歴然とした違いがあります。
そして、なにより「気品」のようなものが感じられます。

それは、原皮を提供してくれた動物たちの生命、鞣し剤となる植物たちの生命、そして骨身を惜しまず重労働に打ち込む人々のたゆまぬ営み、…そうしたかけがえのないものたちの結晶だからでしょう。

Yさん、Iさん、そして栃木レザーの皆さん、
さらに企画してくださったT師匠とMくん、
貴重な体験をさせていただき、本当にありがとうございました。

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ファーストシューズ

2012.09.26.Wed.02:40
赤ちゃんがはじめて履く靴のことを「ファーストシューズ」といいます。
まだ歩き出す前の靴ですから、基本的には足を保護し冷やさないことが目的。
1st step shoesさんのサイトでは、フリーダウンロードの型紙を提供してくださっており、材料や制作マニュアルなどをコンプリートした「手作りキット」の販売もされています。

手作りファーストシューズ・ベビーシューズの 1st step shoes

こんなかわいい靴が作れたらいいなあと思いながら、なかなかキッカケがないまま今日まできてしまいました。
第一、せっかく作っても履いてくれる赤ちゃんが周りにいないし。
…なんて思っていたら、ひょんなことからチャンスが巡ってきました。
マドリッドの工房のスタッフ・イオネラが、近く産休に入るというのです。
彼女のような有能な人が長期のお休みに入ってしまうのはかなり痛手なのですが、理由が出産とあれば「おめでとう」と送り出すしかありません。
いつもあなたの行き届いた仕事ぶりに助けられているよ、ゆっくり休んで元気な赤ちゃんを生んでね、と伝えたいのですが、彼女は英語NG、私はスペイン語NGなので、なかなかスムーズなコミュニケーションがとれません。
日ごろの感謝の気持ちを、なにかのカタチにできないかなあ…
そしてふと、ファーストシューズを贈ることを思い立ちました。
よし、一度試作してみてイケそうなら(←彼女も職人ですからあまり恥ずかしい出来のものは贈れないのです、超プレッシャー)彼女の好きな色で作ろう。

というわけで、とりあえず第一弾を作ってみたのがこちらです。




上記サイトから型紙をダウンロードさせていただき、手許にある革の端材を寄せ集めて作りました(一部アレンジを加えたところもありますが、ほぼ基本形です)。
画像では木型に履かせていますが、制作時には木型は使いません。
釣込という工程がないので、力技も必要としません。
お裁縫の基本ができる方なら、最低限の道具さえ揃えればどなたでも作れると思います。

型紙を販売ではなくフリーダウンロードという形態で配布している理由について、
1st step shoesさんは「型紙を介して手作りしたい人へのお手伝いをするということ、手作りのコミュニティを育てて、多くの方々に赤ちゃんの靴を手作りしてほしいということ」と綴られています(そのため、商用利用はNG、ダウンロードする前にはフォームメールを送りパスワードを受け取る、といったルールが設けられています)。
こんなふうにモノ作りを応援してくださるのは、とてもありがたいことですよね。

ちっちゃい靴をいじってると、なんだか気持ちがほんわりとしてきます。
みなさんも、もし機会がありましたら、ぜひ一度トライしてみてくださいね

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試行錯誤

2012.08.18.Sat.03:38
いま取り組んでいるテーマのひとつが、現在セノビージャで展開している細幅木型よりさらに細い木型を作ること。
実は、足は時代とともに大きく変化しており、また地域によっても特性の違いが見られます。
世界的に見ても、クルマ社会が発達し幼少時の歩行距離が減少傾向にある地域では、足はどんどん細く長い形状になってきています。
とりわけ華奢な足の持ち主が急増している東アジアや北欧では、従来の細幅でもまだまだフィット感が足りないと感じられる方がかなりいらっしゃるのです。
このような場合弊社では特注で手作業による木型修正を承っていますが、率直に言ってこうした作業は職人たちにとっては負担が大きく、納期に影響が出ることも否定できません。
手作業の木型修正を最小限に抑えつつ、お客さまの足にぴったりな靴を誂えるためには、どうしても新しい木型が必要になってくるのです。

とはいえ、従来の木型を削って単純に細くすればいいわけではないのが、木型開発の難しいところ。
足入れ方向を正しく制御しつつ関節可動域を制限しないこと、横ぶれをなくしつつ複雑なサパテアードに伴う自由な動きを可能にすること…等々といった、一見矛盾する課題をひとつずつクリアしていかなくてはなりません。
とりわけフラメンコシューズの場合、通常の立つ・歩くといった動作よりもはるかに激しい運動を想定した設計が求められます。
フラメンコシューズは、言わばパンプスの形状でありながら、運動靴でなくてはならないのです。
このため、フットケア・テーピング理論の応用により、アーチサポートを底面(インソール・アウトソール)調整に極力頼らずアッパーで行うことは、靴作りを始めた当初からの私の目標であり、作業仮説でもありました。

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左が試行錯誤中の木型で今日ざっくりと作ってみたテストシューズ、右が従来の普通幅木型で作った靴です。
ベースはセノビージャの木型ですが、踵~中足部はエグイくらい絞り、踵点-ボール長を短縮し、外振りからセンター方向へと足入れを修正してみました。
実際に履いてみると、狙い通りのところも、うーんまだまだというところも…あるなあ。

実は、テストシューズを作るのは、これが三足目。
一足目は狙ったフィット感が出せず、二足目は絞りすぎてドMな人しか履けない靴(爆爆弾)になり、三度目の正直…といきたかったのですが、やはりまだまだ課題が残ります。
走れば走るほどゴールが遠のくような気がしますが、失敗が次のヒントになることもあり、作るたびに学ぶことが多いです。

完成まで数年越しの宿題になりそうですが、靴だけにpaso a pasoで続けていくしかありません。
細足の皆さま、ちょっと気長に待っててくださいね足あと

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夢の靴職人

2012.02.04.Sat.04:37
久々に手に取った一冊。
かの高級女性靴ブランドの創始者にして、名だたるセレブリティ御用達の靴を作り続けたサルヴァトーレ・フェラガモの自伝です。

$Senovilla Japon(セノビージャ・ハポン)公式ブログ

『夢の靴職人——フェラガモ自伝』サルヴァトーレ・フェラガモ著/堀江瑠璃子訳 文藝春秋社刊 1996年

まず目を奪われるのは、表紙のモノクロ写真。
床一面に拡げられた木型には、顧客一人ひとりの名前が記されています。
「SOPHIA LOREN」
「GRETA GARBO」
「SILVANA MANGANO」
「ANNA MAGNANI」…
個人的な好みでピックアップしましたが、上記以外にも著名な女優たちの木型がずらりと彼を取り囲んでいます。
ちなみに、彼が手を触れているのは「IRA VON FURSTENBERG」――貴族にしてドイツの女優であるイーラ(アイラ)・フォン・フュルステンベルク――の木型。
踵が細く甲の薄い足の持ち主だったことが、写真からもよくわかります。
(私のフィッティング経験から言っても、山の手育ちのお嬢さまには、このような華奢な骨格の方が非常に多いです。)
対照的にソフィア・ローレン(私の大好きな女優の一人です)の木型は、幼少期の貧しい生活から銀幕のスターにまで昇り詰めた彼女の人生を象徴するかのような逞しさ。
2年前に映画「NINE」で主人公の母親役をつとめた彼女は、77歳のいまも現役で活躍中。
こんなパワフルな足の持ち主なればこそ、でありましょう。

$Senovilla Japon(セノビージャ・ハポン)公式ブログ

       IRA VON FURSTENBERG



$Senovilla Japon(セノビージャ・ハポン)公式ブログ

       SOPHIA LOREN


この本とはじめて出逢ったのは、私自身が靴作りを始めるはるか前。
当時はまさか自分で靴を作ることになるなんて想像もできませんでしたから、一人の著名な靴職人の生い立ちや、どんな風に自分自身が納得のいく靴を作り上げてきたか、といったストーリーの部分に関心を持って読みました。
今回は、「新しい木型を創る」という自分自身のテーマにやや手詰まり感をおぼえ、具体的なヒントを求めての再読となりました。

いやはや、これが目から鱗の連続。
1956年に書かれた自伝ですから、若干記述が旧くなっている部分はもちろんあります。
でも「第七章 秘密を探し求めて」「第八章 ぴったりの靴」や「第十六章 健康な靴」「第十七章 靴の買い方と良い歩き方」などを読むと、今日足と靴の間で起きている幾多のトラブルが半世紀以上前にすでに出尽くしていたことを、改めて思い知らされます。
そして、現代ではその問題が、いっそう複雑かつ深刻の度を増しているわけです。
第七章と第八章は靴作りを目指す若い世代の方々に、第十六章と第十七章は靴が好きな方々や一生元気に歩き続けたいと思う方々に、ぜひご一読をお勧めします。
なぜならこの自伝は、サルヴァトーレの愛する妻ワンダと「歩かなければならないみなさん」に捧げられているのですから。

今回読み返してみて最も驚いたのは、フェラガモ自身が自分の靴を作り上げていくプロセスについての記述でした。
彼がそれまでの靴作りに限界を感じてまず行ったことは、解剖学、とりわけ足の骨格の勉強のために夜間学校に通うことでした。
次にエネルギーを傾注したのは、抽象的な解剖学の理論から、具体的な採寸(フィッティング)の方法を確立すること。
そして、その採寸結果を忠実に反映させるための木型を作成し、新しい靴の製法を浸透させるために若い職人を育成し、さらに事業規模の拡大によって商品の質が落ちることがないようシステムを構築することだったのです。

思えば、自分の足のトラブルをきっかけに既成靴の限界を知った私は、最初にドイツ人マイスターが教鞭をとる靴学校で、整形靴の知見や技術、解剖学、整形外科学を学び、並行してフスフレーゲ(ドイツ式フットケア)の理論と技術を学んだのでした。
卒業後も、採寸と木型作成、手縫い靴を教える工房に通い、注文靴専門店でフィッティング技術を学び、それまでに得た知識とフラメンコを通して得た身体感覚を総合して、現在のフィッティングのメソッドを作り上げてきました。
そしていま、新しい木型を作るために、そしてその木型を使って新しい靴づくりのシステムを作り上げるために、アタマを悩ませているわけです。
このプロセス、まったく同じじゃん!

半世紀も前に同じテーマで格闘した天才がいたのだから、現代の私たちはどこかで要領よく端折ってショートカットできないものかと思いますが、それができないところが靴づくりの奥深さ、難しさ、そして面白さなのかもしれません。
いま自分がテーマとして取り組んでいる問いが、自分の生まれるはるか以前から続く靴づくりの歴史の延長線上にある、小さな小さな一点を占めているという再発見。
「エライことを始めてしまったなー…」とがっくり気落ちする部分もあり、天才靴職人から励ましのメッセージを送られているような妄想もあり、読後感はなかなか複雑です。

…この感じ、何かに似ているな。
そう、ホントに素晴らしいと思えるフラメンコに出逢った時も、同じように疲労困憊と心が震えるような喜びを同時に覚える私なのでした。
そうか、要するに手に負えないくらい難しくて奥深くて熱くて面倒くさいことが、私は好きだったんだな…と自分のドM気質を改めて実感。
何ごとにつけ、「要領よく端折ってショートカット」なんて、できないものなんですね。

というわけで、明日からまたがんばろっとビックリマーク

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